■相互繁栄への連帯

大手商社や、大企業のみならず、関西の中堅・中小企業とアジア各国との結び 付きが深まるにつれて、共通して取り組む課題も多くなっている。人材育成、 情報収集、資金調達等といった中小企業に対する活性化が最大の課題となって いる。大阪を中心とする関西経済もアジアの発展途上国経済も、ともにその基 盤を支えているのが中小企業という点では類似しており、その育成の成否が、 それぞれの地域や国の発展を大きく左右することになる。

このような見地から、1994年10月に大阪で開かれたAPEC中小企業担当大臣会合 では、各国の経済成長の鍵は、中小企業の成育に大きく依存するとの共同声明 が採択された。

声明は、中小企業を「起業家精神あふれる産業構造の基本単位で、国際的な分 業構造の担い手」と規定したうえで、「経済成長の成果を地域に行き渡らせる 毛細血管の役割を果たしている」と、その重要性を強調した。

さらに、アジア・太平洋地域の成長のカギを握る中小企業が、発展途上国では 人材育成、技術・資金調達面で困難に直面しており、投資規制や輸入制限など の障壁が中小企業の発展を妨げていると分析し、先進国には、情報提供などの 支援を拡充し、規制緩和を一段と進めるよう求めた。

これを受けて、通産省と地元・関西の自治体、経済団体が中心となり、特にア ジア太平洋地域の人材育成への貢献を目的として「APEC中小企業民間指導者セ ミナー」を1995年から96年にかけて実施することになった。同地域から約100 人の中小企業関係者が、関西でそれぞれの経験やノウハウの交換、そして人的 ネットワークの交換をも行うこととなる。

環境資源の保護も大きな課題になっている。わが国には、これまでに蓄えてき た環境保全技術があり、関西では三重県四日市市には国際環境技術移転研究セ ンター(ICETT)、滋賀県草津市と大阪市には国連環境計画(UNEP)の国際環 境技術センター(IETC)が設置されている。また関西文化学術研究都市には地球 環境産業技術研究機構(RITE)がある。

こうした環境保全技術は、研修会などを通じてアジア各国の技術者や専門家に 受け継がれており、アジア各地における山肌での土壌改良や植林、また、公害 防止装置や汚染物質測定機器の導入などが行われているが、アジア全域をカバ ーしきれていないのが現状である。

「環境首都関西」を目指して提言、調査活動をしている産官学などで組織する 「地球環境関西フォーラム」は、アジアの経済成長と環境・エネルギー問題を 各国の専門家が討議する国際シンポジウム「成長アジアの環境問題と日本」を 1995年10月に開催した。8月には中国・山東省の沿海部にある煙台市の環境都 市づくりを目的とした協力会議を開き、産業・技術面での提言も行った。

教育による人材育成についても、さまざまな試みがなされている。バンコク日 本人商工会議所は21世紀教育基金や人材開発会議を設け、日本企業とタイアッ プしてタイでの人材開発・育成に積極的に取り組んでいる。

日本など25か国の支援でバンコクに設置されている大学院大学「アジア工科大」 (AIT)にはタイや台湾、フィリピンなどから1,000人以上の学生が集まってい るが、東南アジア諸国への技術移転をさらに促進するため、AITの大学版をつ くろうという機運も高まっている。

1995年5月末、韓国ソウルで開催されたAPEC電気通信・情報産業大臣会合で、 APII(アジア太平洋情報基盤)の目的、原則を盛り込んだ「ソウル宣言」が 採択された。その骨子は「APIIはGII(世界情報インフラ)の重要な一部であ り、域内の雇用創出、経済成長に貢献するものと認識し、域内の相互接続・運 用可能な情報インフラ構築拡大、開発のための技術協力、自由で効率的な流通 の促進、人材の交流および育成促進などの目的に同意する。また各国国内の電 気通信および情報インフラ構築の奨励、競争先導型の環境の促進、民間セクタ ーの投資および参加の奨励、各国間のインフラ格差の是正、知的所有権、プラ イバシー・データ保護確保など10原則に合意する」というものであった。

また、水力、火力、原子力の発電所をどのように建設し、油田をいかに開発し てガスのパイプラインをどう敷設していくのか、クリーンな太陽光や風力を利 用したエネルギー供給システムはつくれないのかなど未解決の問題が山積して いる。

新しい世紀を直前に、グローバリゼーションが進む中、人類共通のこれらの諸 問題に、アジア太平洋地域と歴史的にも密接な繋がりのある関西の責務は重い と言える。