■ がれきからの再出発

政府は5月19日に1兆4,293億円の震災復興補正予算を成立させ、住宅建設、が れき処理、神戸港の復旧などに乗り出した。JR、阪急、阪神の電車も全面開通、 兵庫県と神戸市も仮設住宅48,300戸の発注をすませるなどハード面の社会基盤 整備は進んでいったが、その一方で、市民の復興への取組も急ピッチで進んで いる。

神戸市の中華街「南京町」(約70店)では、8店が使用不能となり、厨房や活 魚の水槽が壊れるなど大きな被害を受けたが、常連客らの声援にこたえ、震災 から11日後には炊き出しの屋台で営業を再開した。この路上レストランは、温 かい食事を求める被災者らの人波で埋まった。

2月4日には、横浜中華街が「関東大震災のときには南京町に助けてもらった」 と義援金500万円を贈った。また倒壊した南京町のシンボル「兵馬俑(へいば よう)」の復活をと、大阪府東大阪市の内装会社社長は強化プラスチックでで きた兵士3体、馬1体の模造品を寄付、入魂式が営まれ、震災後の「守り神」と なった。同胞や日本人に支えられ、町は以前の活気とにぎわいを取り戻した。

こんな時にこそ子どもたちに明るい夢をプレゼントしようと、宝塚市の市立手 塚治虫記念館は、建物の修復が完了した3月1日から春休みが終わる4月9日まで 無料開放に踏み切り、鉄腕アトム展を開催、館内には幼稚園児たちの歓声が響 いた。

神戸市の新オリエンタル劇場も、被災者の文化スポットにと無料開放を決定、 4月1日から23日まで映画、演劇、コンサートなどのチャリティ公演「コウベ・ エイド」を開いた。入場者は延べ約3万3,000人にも達し、寄せられた義援金約 420万円は神戸市に贈られた。

また、被災地である西宮市と「近松のまち」尼崎市の両市では、国際会議 「シェイクスピアと歌舞伎」が8月8日から3日間開催された。芸術立県を提唱 する兵庫県が協力し、文楽と歌舞伎発祥の地・関西から伝統文化の今日的意味 を世界に発信するとともに、民衆の歌舞伎である播州歌舞伎を招き、最終日に は一般市民を招待した。

博物館や美術館のほとんどは被害を受けたり被災者の避難所となったりして休 館に追い込まれたが、建物の復旧工事、作品の修復、資料の整理も進み、全面 再開に向けて急ピッチで動き始めている。

本館の彫刻室や特別展示室などが大きな被害を受けた兵庫県立近代美術館(神 戸市灘区)も修復が終わり、8月15日の終戦記念日に「戦後文化の軌跡 1945-1995」展で再スタートを切った。神戸市立博物館(神戸市中央区)は、 地盤の沈下と液状化に見舞われたが、3万2,000点の収蔵品はほぼ無事で、1996 年1月のオープンを目指している。中国と日本の古美術コレクションで知られ る白鶴美術館(神戸市東灘区)も国宝2点を含む収蔵品約1,300点は無事で、 1996年中の再開を期して再建工事が続いている。

被災者自らの「心の復興」も忘れてはならない。恐怖の中で肉親や友人を失い、 心に深い傷を負った人たちは、その時の光景が忘れられないフラッシュバック 現象に悩むPTSD(心的外傷後ストレス障害)を訴えている。兵庫県内13か所に 「こころのケアセンター」が順次設けられ、専門医らが心の治療にあたってい る。